神(キリスト)をも動かす信仰

「神(キリスト)をも動かす信仰」 2023/8/20

マタイの福音書15章21~28節

 イエスさまはツロとシドンの地方に立ち退かれました。ツロとシドンはイスラエルから見たら「外国」です。イエスさまはイスラエルでの伝道活動を一時中断されて、外国へ立ち退かれたということです。なぜでしょうか?

 14章でイエスさまは、五つのパンと二匹の魚で五千人以上の群衆を満腹にするという大きな奇跡を行われました。この奇跡でイエスさまは、ご自分が神の子であり、本当の「命の糧」であることを示されました。ところが弟子たちはこの奇跡の直後、湖の上を歩くイエスさまを見て「幽霊だ」とおびえ、叫んでいます。彼らはパンの奇跡の意味を全く理解していなかったのです。イエス様は、まずご自分が救い主キリストであることを弟子たちが受け入れ、そのあとご自分が十字架で死ぬことによって人々の罪の罰を引き受け、人々を罪から救おうとしていることを弟子たちが理解してくれるものと期待していたのですが、その期待は裏切られました。それでイエスさまは失意のうちに、伝道活動を一時中断して外国へ立ち退かれたと考えられます。

 ところがその外国で、1人のカナン人の女性がイエス様に助けを求めてやって来ます。彼女の娘が悪霊に取りつかれていたのです。しかしイエスさまは最初、彼女に一言も答えず、さらに「わたしは、イスラエルの家の失われた羊以外のところには遣わされていません。」「子どもたちのパンを取り上げて、小犬に投げてやることはよくないことです。」とまでおっしゃいました。じつに「イエスさまらしからぬ」対応です。しかしこれは、民族差別ではなく「順序」の問題です。ここでいう「パン」とは「命の糧」であるイエスさまご自身のことですが、この命の糧は、イエスさまの死と復活によってまずユダヤ人に与えられ、そのあとユダヤ人から世界中に届けられるという順序でした。

しかし、カナンの女性が言った「主よ。そのとおりです。ただ、小犬でも主人の食卓から落ちるパンくずはいただきます。」という言葉にイエスさまは深く感動され、彼女の娘を癒されました。「資格のない者に資格を与える神」を彼女は信じたのです。この女性の謙遜さとあきらめない勇気は、イエスさまさえも元気づけました。私たちも彼女の信仰から励ましを得たいと思います。

(井上 靖紹 長老)