神をも動かす真の信仰

「神をも動かす真の信仰」 2017/9/10

    イザヤ56:1~8
    マタイ15:21~28

イエスさまはイスラエルを出て、カナン地方(今のレバノン)に行かれた。そこで娘の癒しを願うカナン人の女を、イエスさまは強く拒絶されました。不思議なことはまだあります。イエスさまは「イスラエルの失われた羊以外のところには遺わされていません。」と言われたのに、遣わされないカナンに来ていることです。つまり、イエスさまは、ユダヤ人も含め、全ての人に対して活動を休止しておられたのです。
14章で、イエスさまはいわゆるパンの奇跡を行われました。にもかかわらず、イエスさまがキリストであることを、弟子たちは理解しませんでした。そればかりか、パリサイ人たちが来て言うのは、「あなたのお弟子はパンを食べるとき、手を洗っていない。」でした。つまり、どんな奇跡をしても、お前がキリストではないことはこれで明らかだと言いに来たのです。
イエスさまにとって、パンの奇跡は切り札というべき大技でした。その切り札を切って、このありさま。イエスさまは完全に手詰まりになって、一時的に全ての人から隠れるためにカナンヘ来られていたのです。
「子どもたちのパンを取り上げて、小犬に投げてやるのはよくないことです。」パンとはイエスさまご自身のことです。ユダヤ国外へ出たのは、パンを子どもたちから隠したのも同然で、それを他国人に与えれば、いよいよ父の御心に背く。御心に背くことはできないのがイエスさまの心でした。
ところが、女は抗議も反発もせず、「主よ。そのとおりです。ただ、小犬でも主人の食卓から落ちるパンくずはいただきます。」と言いました。彼女は、自分が選ばれた人ではないことを完全に認めることで、逆説的に、神さまは人を選ぶ権威があることを信じる信仰を表明したのです。これは、自分が神さまから選ばれたと固く信じているユダヤ人には、かえってできないことでした。イエスさまはこれを聞いて感動され、「ああ、あなたの信仰は立派です。その願いどおりになるように。」と言われました。
この出会いに励まされたイエスさまは帰国して、二回目のパンの奇跡を行われました。一度でだめなら、もう一度と、腹をくくられたのです。その結果、16章でようやく「あなたは生ける神の御子キリストです。」というペテロの信仰告白を引き出されたのでした。
父なる神の御心を変え、救い主を助けた彼女の信仰の根っこにあったのが、彼女の謙遜さとあきらめない勇気でした。謙遜さと勇気と。カナンの女の信仰から、イエスさまと同様に、私たちも力を得たいと思います。 (井上 靖紹 長老)